オケラ街道の奇人

令和という斜面に踏み止まって生きる奇人。自称抒情派馬券師、オケラ街道に潜む。

幻馬伝『一徹 vs 段平』後編

https://okeraman.hatenablog.com/entry/2023/01/14/171255
一徹vs段平(前)

https://okeraman.hatenablog.com/entry/2023/01/22/165541
一徹vs段平(中)

この続きです。

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一人の友達もない一徹と段平の奇人ふたり。お互い罵倒しあいながらも妙にウマが合うようだ。
浅草ホッピー通りで肩を組み千鳥足ながらも二軒目の酒場に入った。

「なんじゃと! おのれは自分が果たせなかった夢をジョーとかいう見ず知らずの少年に託し、ストーカーまがいのことをやっておったのか? 何という破廉恥な奴だ?このタコ坊主!」

海坊主呼ばわりされていたのが、今度はタコ坊主? 段平も言い返す。

「旦那だって、自分の成し得なかった夢を飛雄馬とかいう息子さんに押しつけているんじゃないですかい?」

「わしの場合は血の繋がった実の息子じゃ! おのれのようなストーカーとは違う。他人がとやかくぬかすな!」

「へ? それは親のエゴってもんで、しかも変なギブス装着を強制して、おまけに卓袱台を引っくり返すなんて、それを世間では家庭内暴力児童虐待っていうんですぜ、旦那」

「な、なんだとぉ~、このデブが!」

デブと言われた段平はムッとして立ち上がると拳を構えた。
一徹はそれに対抗して、浅草の仲見世で買ったゴムボールを掴み、魔送球を段平の顔めがけ投げる構え。

ケタ違いの奇人、ケタ違いのエゴイスト二人の視線がバチバチ交錯する。

「お客さん、お願いですから静かにしてもらえませんかね?...」

店の女将さんに怒られたふたりは席に戻ると鶏の唐揚げを追加した。

気が付くと隅田川沿いのベンチに腰掛け、のしイカを肴に一升瓶で盛り上がっていた。一徹は野球への思いを、段平は拳闘への思いを語り合った。
罵り合いながらも、そこはかつてスポーツに夢をかけた者同士で気持ちはよく分かるようだ。

一徹はどこか垢抜けぬ叩き上げを思わせるタケホープに息子の飛雄馬を見ていた。段平は自由な逃亡者を思わせるホワイトフォンテンにジョーを見ていた。毎回、そんな買い方をしているふたりはいつもオケラ街道を歩く。

世捨て人気質よろしく。

そんなふたりが出会って友になった。良いダービー日だったのだろう。

「おいタコ坊主!だいぶ遅くなったようだな。電車は大丈夫か?」

ふたりはヨロヨロしながら浅草駅から電車に飛び乗った。
一徹は町屋、段平は南千住、北千住まで行けばどうにかなる。

しこたま飲んだ一徹と段平は座れたので熟睡してしまう。
気が付くと東武動物公園であった。
最終でもう上り電車はなく、ふたりとも財布の中身は空っぽ。

結末は?
翌朝、一徹が長屋の管理人に電話をして、娘の明子を呼び出し東武動物公園まで迎えに来てもらうことになる。

素晴らしきかな? 一徹&段平

あのハイセイコーが敗れた日本ダービーの日から今年でちょうど50年。
(1974~2023)

それまでの競馬場はどこか怪しげで鉄火場の雰囲気がプンプンしていたそうです。当然、女性や若者の姿は稀であり、場を支配していたのは一徹や段平のような愛すべきオヤジたちです。

そんな競馬場の景色を一変させ、競馬場に女性や若者を呼び込んだのがハイセイコーという一頭のサラブレッドでした。あれから鉄火場オヤジたちは徐々に競馬場から淘汰されてきた。

一徹や段平はまだ飛雄馬やジョーに夢を託し恵まれているんでしょうね?
競馬場には夢破れてギャンブル三昧の男たちが溢れていました。
ハイセイコーが、オグリキャップがそんな男たちを競馬場から追い出したのでしょうか?

いいや、気質や身なりはだいぶ変わりましたが、まだまだそんな身を持ち崩す遊民は大勢います。

ハイセイコーは翌年(1974)引退。
あのミスター長嶋さん引退試合があった年です。世間では吉田拓郎襟裳岬(森進一でレコード大賞)や、井上陽水のアルバム氷の世界がミリオンセラーになり時代は新たな若者へ。

私が千住や錦糸町などのあやしい繁華街が好きなのは、一徹や段平に会いたいからなのかな?

あの頃、中三受験生だった私も還暦をとっくに過ぎ今年から年金生活

一徹と段平は年金もらってたのかな?