オケラ街道の奇人

令和という斜面に踏み止まって生きる奇人。自称抒情派馬券師、オケラ街道に潜む。

犬さらいのおじさん

犬さらいって、ご存知でしょうか?


コロナ禍で季節感のない 2020年。
あっという間で、そんな今年も10月になってしまいましたね。



私がまだ小学校3年生の頃だったと思います。ガキんちょだった私に、忘れられない悲しい思い出があります。

ベール、ベルベルベル♪

学校から帰ると、名犬(私にとっては名犬)ベルが、ハアハア言いながらすっ飛んで来るのです。
それは、もう、絶対というほどどこへいようとも、嬉しそうに必ずすっ飛んで来ます。
当時は、飼い犬も放し飼いが多かったんですね。野良犬もいたなぁ。

ベール、ベルベルベル!♪

いつもは、呼ばずともベルの方から走って、走って、、全力疾走ですっ飛んでやってくるのですが、その日は、口笛を混じえた私の呼びかけにもやって来ませんでした。


野犬狩りでしょうね...。
当時は「犬さらい」と言われ、愛犬家から恐れられていたという。


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谷内六郎「犬さらいが来た日」



父や母に「ベルはどうしたの?」と聞いても、渋い顔をしているだけ。

ベルは黒と白のきれいな?毛並みの中型犬。雑種の雌犬でした。
荒川の土手に捨てられていたのを父が拾ってきたのです。
発情した近所の雄犬?野良犬?によく狙われていたなァ。
ベルは子犬を数匹産みました。見栄えのいい一匹だけ残して、他の子犬は、父がベルを拾ってきた荒川土手へ捨ててきたそうです。残酷ですが、それが現実なのでしょう。


その日、ベルは戻ってきませんでした。昼間、犬さらいの人が近所にいたそうです。
何日経ってもベルは帰って来ませんでした。私は悲しくて泣きましたね。


黒い疑念が湧きました。

「なぜ、父は保健所にベルを迎えに行かないのか?」

母犬ベルと、子犬レオの2匹を飼う余裕がない、その他、色々事情があったのは、容易に想像がつきます。


犬さらいのおじさんは、手に針金の輪をあやつって恐怖で動けなくなった犬をひっくくります。
大切な名犬ベルがさらわれる瞬間を想像すると、まだ幼かった私は悲しくてたまりませんでした。

それは、夕映えの赤茶けた不安な風景に結びつく悲しい思い出です。


10月のことでした。
この季節になると、遠い日のベルをたまに思い出すのです。


ベルの産んだ子犬は、レオと名付け、その後、我が家の一員として楽しく暮らしました。