オケラ街道の奇人

令和という斜面に踏み止まって生きる奇人。自称抒情派馬券師、オケラ街道に潜む。

妄想・オケラ街道の少女(9)ストーカー。

 

おれがストーカーと化したのはいつ頃だったのだろうか?
静香ちゃんとは母親同士が仲良かった関係もあり、物心がつく頃からのガールフレンド? まぁ、幼馴染みだった。
おれが小2の時に、彼女(小1)は引っ越して行った。それから7年半の時が経ち再会した静香ちゃんは見違えるほど背が高くなっていたが、あの切れ長でいつも眩しそうにしていた目は忘れるはずがない。

なんて美人になったんだ?
いつもおれの後を追っていた、あのバンビのように痩せて小柄だった静香ちゃんが、おれと同じ位(その頃168〜169?)身長があるんじゃないか?、、まるでモデルさんみたいだな。。。


「あれ!静香ちゃんじゃないか?おれだよ、おれ、、〇〇だよ。久しぶり!」


そう言うと、静香ちゃんは目を輝かして懐かしそうにおれを見る。やがて、静香ちゃんとおれは付き合うことになる。いつもそんなことを思い描いていたが、シャイだったおれに話しかけることなんて不可能。
そんな恋心を抱きながらも、おれは受験勉強に邁進するしかなかった。
おれは第一志望埼玉県内の公立校に合格することが出来なかった。第二志望の都内私立高校に春から通うことになる。
とうとう一度として静香ちゃんに声を掛けることもないまま卒業。

恋多き少年だったなぁ…。

うう、、き、気持ちわりい、、、。
静香ちゃんのことを思い出しながら、部屋で一人陰気に酒を飲んでいると悪酔いしたようだ。安焼酎をホッピーにドボドボ溢れさせ碌に肴を摘まず何杯も飲んでしまったようだ。トイレに立つも足元が覚束ない。おれはバカなのか?

「おじさん、あまり飲み過ぎないようにって言ったでしょ? 死んじゃうよ…」
チグサの声が聞こえる。
「なんじゃと! 小生意気な小娘がわしに説教するつもりでおるのか?」
おれはチグサという幻影に向かって、誰もいない部屋で叫んだ。

おれはやはりバカ決定だな。

あの、いつも眩しそうにしていた、睫毛の長い切れ長の目。バンビのように華奢な身体付き。静香ちゃんとチグサの姿が重なった。おれがチグサに似ているのではない。そんな視覚的なものではなく記憶なのだ。あの頃の静香ちゃんの記憶が時空を超え、50年後の老いた?おれの妄想の中にチグサとなって具現化したのだ。
チグサはあの頃のおれのメモリー、おれは自身の50年前に重ねていた。だから自分に似ていると感じたのかもしれない。

中学を卒業し、静香ちゃんと再会したのはその2年後。もう会えないだろうと忘れかけていた時だった。
1975年春? 初夏? 高校で野球部に入ったおれは、その練習で毎日帰るのは夜の8時過ぎだったかな? その日は中間テストか期末テスト前で、その期間はクラブ活動は中止。部活動もなく下校すると、川口駅前でバス(〇〇循環)を待っていた。向こうの方から見覚えある女の子がこちらに向かって歩いて来る。

静香ちゃんだ!!

ずっと抑えていた恋心がまるでゲリラ豪雨のように襲ってきやがった。
彼女はおれの恋心が過剰に膨らませていたのかもしれないが、更に垢抜け、とてつもない美少女に変身していた。
こんな美少女とおれは幼馴染みで毎日のように遊んでいたのだ。泣かせてしまったことも一度や二度ではない。

向こうから歩いてきた静香ちゃんは、おれが並んでいるバス停の最後方に並ぶ。
静香ちゃんもこのバスで帰るのか? 同じ中学に通っていたのだからおれんちから近いのかもしれない。
バス内に入ると、吊り革につかまっている静香ちゃんの隣に立ち、おれも吊り革につかまった。当時172ちょいのおれと大差ない長身。女子にしてはかなりでかい。

おれは、あの時のことを強烈な印象として忘れることができない。
ずっと、車内でドキドキしていた。あの頃はあんなに仲の良かったふたりなのに、気付いてくれない。おれの方をチラッとでも目を向けてくれない。
その間、15〜20分程か? 〇〇三丁目のバス停に着き降りなければならない。しかし、静香ちゃんは降りない。このチャンスを逃せば、いつまた会えるか分からない。おれは降りなかった。
静香ちゃんが降りたのは次々の停留所だったか? おれもさり気なく降りる。

勇気を振り絞って、おれは話しかけようとした。しかし、あまりにも美少女と化した彼女に、おれ如きが話しかけるのは恐れ多い。無理だ! 無理だ無理だ。
おれは怪しまれないよう、一定の距離を保ち静香ちゃんの後を追った。
それから、二年間以上に渡る静香ちゃんへのストーカーと化すのであった。

 

 

酔っ払った。


一旦、静香ちゃんへの追憶を断ち切る。おれは和茶を飲みながら、菓子きな粉餅を口に運んだ。旨い! チグサ、お前はこのきな粉餅が好きだったな。あの頃は、こんなシャレたお菓子なんかなかったんだぞ。

 

チグサがそこにいる。

つづく。