オケラ街道の奇人

令和という斜面に踏み止まって生きる奇人。自称抒情派馬券師、オケラ街道に潜む。

妄想・オケラ街道の少女(13)一番センター〇〇くん!

中学卒業アルバムをめくりながら、おれは中山競馬場帰りに会った50年前のおれのことを思い出していた。
あの少年の脳内は遠い日の少女静香ちゃんのことで、その妄想でいっぱいのはずだ。しかし、少年は年が明けると高校受験そして中学を卒業しなくてはならないのだ。
アルバムの中のおれは何故かしかめっ面をしている。今日会った少年そのものだ。
そんなおれの近くに須藤美樹(仮名)の姿があった。その頃はまだ気付いていなかった。おれは恋多き少年だった。


・・・・・・・・・・•・・・・・・・
須藤美樹のことは以前書いてます。

恋文の想い出(前)
https://okeraman.hatenablog.com/entry/2022/01/23/171138
恋文の想い出(中)
https://okeraman.hatenablog.com/entry/2022/01/29/001521
恋文の想い出(後)
https://okeraman.hatenablog.com/entry/2022/02/03/234803
初恋
https://okeraman.hatenablog.com/entry/2020/11/15/061346
・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そして、アルバムを閉じた。

懐かしい静香ちゃんが、あれから又、あの街に戻り同じ中学に通っていたというのに、そして恋い焦がれていたというのに、とうとう何もコンタクトすることなく卒業してしまった。いつも校内で彼女の姿を追い求めては遠くから眺めているだけ。向こうから気付いてくれないかなんて都合の良いことを考えていた。
静香ちゃんは一学年下で、卒業アルバムの住所欄にその名前はない。

中学の卒業アルバムを閉じると高校卒業アルバムを取り出してめくってみた。
地元の公立高校を落ち、おれは都内の私立高校に通っていた。アルバムの中のおれは中学時代より表情が柔らかくなり、いたずらっぽい笑みさえ浮かべている。

 

高校に入ると生活はがらりと変わった。
そんな中で最大の変化は新たな交友関係が生じたことなのかな? そして、野球部に入ると毎日の練習でクタクタだった。
新たな生活、あんなに恋い焦がれていた静香ちゃんのことも忘れかけていた。

そんなある日、夢の中に中学の同級生 “須藤美樹” が出てきた。三年間同じクラス、同じ陸上部に所属した彼女は、女子と話すことが苦手だったおれでも比較的話しやすかった。特別美人とか可愛いという訳ではなかったが、クールでシュッとして影のあるタイプだった。中学時代は気になる存在ではなかったがもう会えないと思うとたまらない気持ちになった。

須藤美樹の夢を見たおれは、彼女のことが好きだったのだと初めて気が付いた。

中学の卒業アルバムで須藤美樹の住所、電話番号を確認すると住宅地図を頼りにその家を探し出した。電話をしたこともあり、一度は留守、一度はお父さんらしき人が出てきたので無言で切った。名乗らなかったので、彼女はおれが電話してきたことは知らないだろう。

おれはいつか須藤美樹に告白しようと思いながらも気が付けば半年近く過ぎていた。もし、あの頃、須藤美樹と再会し告白していれば? きっと付き合うことになっていただろう…と、自惚にも似た妄想を抱く。

ふと、中山競馬場帰りに出会った、あの頃のおれである少年のことを思い出した。

”ダメだ! あんな不器用で頼りない少年が告白なんてしたのなら、顔を赤らめ絶対素っ頓狂なことを言ってしまうに決まってる”

 

高校に入学したのは1974年。

その年は部活の野球に暮れる日々。監督がやたら熱血で練習がきつい。授業中おれはノートの端に藁人形の漫画と監督の名前を書くと呪いの歌を心の中で歌っていた。それでも辞めることなく三年が退部すると、一年秋で外野一角のレギュラーポジションを奪った。足の速かったおれはトップバッター、センターに固定される。

その年の10月14日に憧れのミスターこと長嶋茂雄引退試合があった。この試合は後に三度の三冠王に輝く落合博満が会社をサボり後楽園に足を運んだというエピソードもあったな。
そして、暮れの有馬記念ハイセイコータケホープの最後のレースだというのに、空気を読まないタニノチカラがまんまと逃げ切ってしまった。そんな一年であったが、おれの頭の中にあったのは常に須藤美樹の姿。恋というものは本当にしつこい。

 

 

そして、1975年。
おれは高校2年になっていたが、此処で既述したように(妄想・オケラ街道の少女(9)ストーカー)、あの日を迎える。
川口駅バス停留所で静香ちゃんと再会(と言っても、こちらから一方的に眺めていただけ)したのだった。圧倒的な美少女。欠点があるとすれば、当時172cmだったおれと同じくらい背が高かっただろう。しかし、それは逆に彼女のスタイルの良さを強調している。
須藤美樹に思いを残したままおれは静香ちゃんのストーカーと化した。同時期に二人の女子を好きになったおれは恋多き少年だったが、情けないことにアクションを起こす勇気はない。

 

「見てくれこの脚!見てくれこの脚!これが関西の期待テンポイントだ!」

 

その年の暮れ。
一頭の競走馬がデビューする。

”わが青春のテンポイント“ への道

 

つづく。