オケラ街道の奇人

令和という斜面に踏み止まって生きる奇人。自称抒情派馬券師、オケラ街道に潜む。

ありま きねん。

「すいません、、あれ、観月ありさですよね?...」

銀座にあった「天狗」という酒場にて、隣席にいたOL風の美女2人組が、唐突にそう話しかけてきた。
目の前に現れた有名人に、そのサプライズ感を他の人と共有したかったのでしょうね? 私たち男3人は、有馬記念の反省会という名目で一杯やっていた。

だが、そこにいたのは観月ありさではなく、牧瀬里穂だった。

観月ありさじゃないですよ。牧瀬里穂だと思うんだけど。」

「ああ、、牧瀬里穂ですね...」

すると、牧瀬里穂の後ろから、少年隊の東山紀之がやってきた。
美女2人組の目はキラキラしている。
ちなみに、そこにいたのは牧瀬里穂東山紀之だけではなく、取り巻きというかスタッフらしき数人も一緒だったので、お忍びというわけではない。

牧瀬&東山 一行が去ったあとも、興奮冷めやらず、しばらく美女2人組とも話が弾み、私たち男3人に下心が出てきたのは当然のことだが、みんな不器用なのでそれ以上のことはなかった。

それより、目の前にいた牧瀬里穂
いい女だったな、、大ファンなのだ。


1991 12/22 第36回有馬記念

優勝はダイユウサク
この馬を思い出す度、大波乱を演じたこのレースと、その後の反省会で牧瀬里穂&東山紀之を見たこと、そして美女2人組と仲良くなったことを思い出すのです。
あのレースは、有馬記念史上最大の波乱になるのかな? その翌年のメジロパーマーの逃げ切りも驚いた。

・・・・・・・・・・・・・・・

以下は主観に基づき回顧します。


有馬記念の記憶は、スピードシンボリvsアカネテンリュウから始まり、もう半世紀以上になる。
当時、まだ小学生だった私は、プロ野球ONに匹敵するほどアカテン好きだったので、王者Sシンボリは、まるで吉良上野介のように憎かったな。

有馬記念史上最高の名勝負といったら、何と言ってもTTG決戦。
TTの強さに恐れをなし? 回避する馬続出の中、たった8頭立て事実上のマッチレースでありました。

「名勝負とオールドファンはいうけれど、あんな単調なレース、何処が名勝負なんだよ?」

後世の若いファンが、そう皮肉を込めて宣う。冗談じゃあない!その時代の空気を吸わずして、ビデオで観ただけで何が分かるというのだろうか?
あんな緊張感のあるレースはない。私などは、ファンファーレが鳴ってからゴールするまで、ずっと息ができなく死ぬかと思った程だ(笑)。
あれは、競馬版 力石徹vs矢吹ジョーで、あしたのジョーの世界観なのだ。


オグリキャップトウカイテイオーの、復活ラストランは胸が熱くなりました。ファンタスティック!
あの感動は何度も書いているので、これ以上多くを語る必要はないですね。


気性に問題があり、臆病でもあったナリタブライアンは、覆面をつけて変身した。まるで、仮面貴族ミル・マスカラスのようにスカイ・ハイ! 魔王となったブライアンは三冠馬となり、暮れの中山、有馬記念で大魔王となった。
そんなブライアンにガチンコで挑んだヒシアマゾンの姿も、勇敢なアマゾネスのようで忘れられない。


有馬記念
印象に残るレースは数え切れない。

あのディープインパクトが、国内で唯一敗れたのが有馬記念であり(ハーツクライ優勝)、シンボリクリスエスオルフェーヴルの鬼のような強さ。
ダイワスカーレットの鮮やかな逃げ切り勝ち。ゴールドシップの驚愕の大まくり。キタサンブラックのラストランにも感動しましたね。



まだまだありますが、長くなるのであの年の有馬記念を最後に。


1999年7か月
空から恐怖の大王が来るだろう
アンゴルモアの大王を蘇らせ
マルスの前後に首尾よく支配するため


f:id:okeraman:20211223125740j:plain


世紀末 1999年。

空から恐怖の大王がやってくる?

東海村で臨界事故はあったが、地球滅亡しないでやんの(笑)。
あれを本気で信じた人いるのでしょうか?

20世紀最後の有馬記念を勝ったのはグラスワンダースペシャルウィークとの一騎打ちでありました。

これも名勝負中の名勝負!

当時、アンチ武豊だった私は、河内洋騎乗のメジロブライトを応援。馬券的に的場均とは相性が悪かったので、グラスワンダーも買わなかったのです。

このレースの5日前。

競馬の神様、大川慶次郎さんが亡くなった。大川さんは「グラスワンダーが勝つだろう」と予想していたそうだ。
しかし、レースを見ぬまま逝った。
私はこの人が大好きだった。

これが、恐怖の大王の正体だったのかもしれないですね。

グラスワンダーの記憶と、大川慶次郎さんの記憶は繋がる。




さて、今週は、2021年有馬記念が行われます。

女王クロノジェネシスのラストラン。
そのフィナーレを飾るか?
それとも、エフフォーリアやタイトルホルダーが世代交代を為すか?
個人的には、あのタマモクロスからオグリキャップのような、見事なバトンタッチを見たい。

エフフォーリアが勝てば文句なし?の年度代表馬
クロノジェネシスが勝てば?

物議を醸した1999の年を思い出しますね? 国内で走っていない、エルコンドルパサーが、スペシャルウィークを抑えて年度代表馬になりました。

その前例からラヴズオンリーユーになる可能性もあります。


有馬記念当日をドキドキしながら待ちましょう。


んん~! このブログを書くにあたり、歴代の名馬を検索すると、萌え?と言われる変なマンガ画像ばかり出てきて愕然とし、鬱陶しくて仕方ない。。。(ウマ娘)
ファンの人はごめんなさい。

幻馬伝 「ドサ回りの女王」

とんでもない結末、、最期。
女王ホクトベガのラストラン。
異国の地ドバイで彼女は散った。

このレースを無事走り終えれば、帰ることの出来る遠い故郷に思いを馳せ、彼女は何を思ったのだろうか?

帰りたい。。。


「ベガはベガでもホクトベガ!」

彼女は中央のG1(エリザベス女王杯)を勝ったほどの名牝。
芝も走れる、、しかし、彼女が本領を発揮したのはダートに路線変更してからなのだ。その経緯は、多くの競馬ファンの知るところであり? 長くなるので省きます。

それから、長い長い彼女の旅が始まる。全国の競馬場で彼女は鬼神のような強さを魅せた。

「強い、強い! ホクトベガ。女王様とお呼び!」(南部杯での実況)


流れ流れてさすらう旅は♪
 今日は函館 明日は釧路♪
   希望も恋も 忘れた...♪

こんな歌がありましたね?

そんな旅路の果に辿り着いたのは、異国の地ドバイだったのです。
そして、その先にやすらぎの故郷に帰るはずだった。

あの悪夢。。。

その描写はあまりにも残酷なので控えよう。鞍上、横山典弘は今でも悔い悪夢を見るという。

その遺体は検疫の規定で日本へ帰ることが出来ず、タテガミのみ、関係者が持ち帰ったという。

f:id:okeraman:20211214161314j:plain

人は彼女のことを敬意を込めて「砂の女王」と形容する。
そんな凡庸なニックネームで足りるのだろうか?
差別用語?かもしれないが、私は敢えて言いたい。

ホクトベガは『ドサ回りの女王』
だったのだ。


レース中の事故で命尽きた名馬は数多い。
有名なところでも、キーストン、テンポイントサクラスターオーライスシャワーサイレンススズカ 等々。
その他 数え切れないほど名馬の悲劇を目の当たりにしてきました。

しかし、そんな中でも、私は彼女の、ホクトベガの最期は納得出来ない。
全国の競馬場を旅から旅へと渡り歩いた。そして、彼女の走りに、鬼神の如き強さに地元ファンは歓喜、熱狂した。日頃は寂れている地方の競馬場も、彼女の登場に賑わったそうだ。
浦和競馬場にも来てくれた。

その全てに全力を尽くし、過酷に働きに働き続けた。

その辿り着いた先で、あまりにも残酷で切ない結末。
彼女は故郷へ帰って、ゆるゆると幸福に暮らす資格があったのだ。


彼女が走ったドバイの地で、その後、日本のヴィクトワールピサが優勝(ドバイWC・当時の馬場はAW)した時、ホクトベガは降臨し、どこかで祝福していたと思いたい。そうに違いない。


ホクトベガを思い出す時、ドサ回りのストリッパー?
あの、ジプシー・ローズの光と影に重ね合わすのだと誰かが言っていた。



ホクトベガの最期はあまりにも残酷で切ないが、競走馬の大半は現役を終えると廃用とされる。
そんな、無名の競走馬のことを思えば、ホクトベガテンポイントライスシャワーは、名が残っただけでも幸せだったのだと納得しよう。

否、競走馬にそんな感情はない!
  ただ、故郷へ帰りたかっただけ。



“ 生きているうちが花なのよ
     死んだらそれまでよ ”


残酷だがそれが競馬なのだ。

酒とウマの失敗

「そんなに理性が強くて楽しい?」

大昔、ちょっと付き合っていた女にそう言われたことがあります。
要するに “面白味のない男” って、彼女は言いたかったのでしょうね。
自分で言うのもなんですが、私は自他共に認める真面目人間? まぁ、真正の真面目とは度合が全然違いますが、どちらかと言えばそうで、とにかく自分でも嫌になるほど自制心の塊。

ここで言う自制心とは、己に厳しくストイックというポジティブなイメージではなく、ネガティブな、、つまり臆病なのだと自覚しています。

『飲む・打つ・買うは男の甲斐性』
なんて言葉がございまして。

私は照れ性なので、「買う(艶話)」に関しては触れません。
ご想像にお任せします(笑)。

「博打(競馬)や飲み歩きをするお前の、どこが真面目男なのだ?」
という声が聞こえてきそうですが、自制心が邪魔をして、案外保守的で全てにおいて中途半端なのです。

「飲む打つ買うの道楽の限りを尽くせば、器の大きな人間に成長出来る」
という言葉が本当ならば、だから私は甲斐性がないのでしょうね。
否々、それは遊び人の言い訳でしょう?『酒は百薬の長』とはよく言いますが、『されど万病の元』という続きがあるのです。意外と続きを知らない人が多い。

f:id:okeraman:20211211031809j:plain 


飲む打つ買うは男の甲斐性。されど、大失敗(人生アウト)の最大要因。


私は競馬というギャンブルが大好きと思われているかもしれませんが、ギャンブラーではないですね。
競馬というスポーツが好きなだけで、大きなリスクを負う買い方はしません。絶対に冒険はしない。
酒席でも、これ以上飲むとヤバイぞ!
いつもより口数が多くなって、変な人状態になってるぞ...と、冷静に見つめているもう一人の自分がいます。
そこで、がっちりガードを固め本来の自制心を発揮する。
場合によっては、理由を付けて帰ってしまうこともしばしばでした。

「そんなに理性が強くて楽しい?」

彼女にそう言われた時は、そんな風に見られていたんだ?...と、正直、ちょっとショックもありましたね。
そんな性格なので、この日記のタイトル『酒とウマの失敗』で書き始めましたが、大きな失敗はないですね。
小さな失敗は無数にありますよ。例えば、以前『ホッピー通り☆泥沼男』のタイトルで書いたようなこと等。それを一つ一つ記すのは長くなるので、今回はやめておきます。


器の大きな人間にはなれなかったが、大きなリスクは決して負わない。
そんな人生になっちゃったな。。。


とはいっても、道楽は殆どせず、インドア的な真正マジメ人間からすれば、私などはかなりの道楽者?
どこかで遊び人に対する憧れがあるのでしょう。寅さんみたいな。



最後に、色っぽい話は苦手なのでご想像にお任せします。と、先程書きましたが、一つだけ。


「お前は、噛みつき魔フレッド・ブラッシーかよっっっ!」

ふたりとも酔っていたのは確かだが、あの最中、女はおれの首筋(鎖骨辺り)をガブリ!と噛みついた。
「うわ!」と叫び、首筋は歯型とまではいかないが内出血。

当然冷めますよね?
急に無口になり、黙ってしまったおれに向かって彼女は言った。

「怒ってるでしょ!」

と、逆ギレする始末。

そうじゃないだろ!
すんごく痛いし、内出血してるんだよ。
怒ってる? 違う、お前怖いんだよ!
ドラキュラじゃあるまいし。


しばらくは、あの傷口を隠すのは大変だった。みっともないですねからねぇ。
今となっては懐かしい思い出です。


すいません!下ネタは苦手です。

もう二度としません(笑)。

大宮の夜は更ける。再掲。

今週は更新するネタがないので、過去の記事の再掲にて。
去年の年末、2回に渡って書いた記事。
『大宮の夜は更ける』

・・・・・・・・・・・・・・'・・・・

カニクリームコロッケの誘惑】

20代後半の初夏だったと記憶します。


恐る恐る、、私はその酒場?のドアを開けると、そっと中を覗いた。
ドア鐘がカランコロンと鳴る。


「いらっしゃいませェ~~!」

そこには青江三奈がいた。


私はほろ酔い状態だった。
出生地である大宮で、一日の外回り仕事を終え焼き鳥屋で軽く一杯やった。
大宮にはめったに来ることはなく、なつかしさのあまり、ほろ酔い気分で氷川神社参道をぶらぶら散歩していた時のことだ。

ん!... 
カニクリームコロッケ
私はメニュー看板に書いてあるカニクリームコロッケに誘われ、その店を覗いたのだ。

f:id:okeraman:20211205005816j:plain


「いらっしゃいませ! こちらへ、どーぞ、どーぞ...」

ドア口で戸惑っている私なんぞお構いなしに、青江三奈は店内のカウンター席を勝手に案内した。
ガラーンとしており、客は誰一人いない。ちょっと気が引ける。



大宮氷川神社参道から脇道に逸れた場所にあるその店は、外見からは和風料理屋のようであり、普通のレストラン風でもあった。
中に通されたそこは、カウンターだけの狭いスナックのようでもある。
私は、ただ、カニクリームコロッケに誘われただけで、推しの強そうな青江三奈に席を案内されてしまったのだ。

“ 覗いた瞬間、目が合っちゃったんだからしようがない。断れないよな... ”

青江三奈はお通しを通すと、メニューを差し出してきた。

「あの、、生ビール下さい」
「はい、生ね?」
「それから、カニクリームコロッケって、外の看板に...」
「はい、カニクリームコロッケありますよ!」

青江三奈はニッコリ微笑むと、裏の厨房のおじさんに注文を伝える。

しかし...
化粧の濃い ケバいママだな。
目が合った瞬間、青江三奈かと思った。似ている、、そっくりだ!
明らかな付けまつ毛は、瞬きする度にパタパタしているようで、妙に艶めかしい(笑)。BGMに伊勢佐木町ブルースが聞こえてきてもおかしくない。


「お客さん、今日はお仕事の帰りですか? 初めてですよね...」

「ええ、まぁ、、」

居心地が悪い。
青江三奈も、若い一見客にどう接していいのか?と、距離感をはかっているように感じる。何かと会話の糸口を探っているようなのだが、私からすれば “構わないで向こうに行ってくれ”
という心境なのだ。帰るタイミングを見計らっているのだから。

ここは普通の料理屋というより、和風スナックの類なのだろう。
カラオケもあるようだし、青江三奈のように派手なママの姿を見れば、どう考えても素人ではない。
駅からちょっと離れたこの手の店は、地元(近所)の常連で持っているような店と推測出来る。
私のような背広にネクタイ姿の若い飛び込み客は珍しいはずだ。
コロッケだけ食べそそくさと帰るのも、まるで逃げるようで、青江三奈も気分を害するのではないか?との気使いから、ビールの追加と、他にもう一品頼んだかもしれない。

「この辺りで生まれたんですよ。産業道路沿いに家があって、5才ぐらいまで住んでたんですよね...」

青江三奈との会話はぎごちないながらも、そんなようなことをぼつぼつと語ったような気がする。

小一時間ほどして時計を見ると、どうやら夜8時を過ぎているようだ。
話もあまり弾まず「お客さん、若いのに無口で真面目なのね...」なんて笑われる始末。私は初対面の派手な中年女との会話に気疲れを感じていた。
“ もうそろそろいいだろう...”
お勘定しようと腕時計に目をやった瞬間だった。


背後のドア鐘がカランコロンと鳴ると、牧伸二が入ってきた。


上下黒のジャージ姿。首にタオル(というより手拭い)を巻いており、汗をフキフキ、突っかけサンダルでパカパカと音をたてながら入ってきた。
その異様な姿にたじろいでいる私を横目に、一瞬、怪訝な顔をしながらも、牧伸二はカウンターの隅に座った。


やはり、ここは近所の常連で保たれている店なんだな。
じゃなきゃ、ジャージで来るか? しかも首にタオル、突っかけサンダルだぞ。まるで近所のタバコ屋に来たついでに寄ったような出で立ち。心の中で苦笑しながら、私はそろそろお勘定しようと財布の中身を確認した。

「今日は暑かったな! ママ、生ビールと枝豆ね」

牧伸二は声がでかい。
そして、青江三奈牧伸二は大声でバカっぱなしを始めた。
私は帰りたいのだが、二人のバカ話が止まらずお会計するタイミングが見つからない。場違い感がすごい。

カニクリームコロッケに誘われただけなのに...。

時間は9時になろうとしていた。
意を決して「お勘定お願いします」と、言おうとした時だった。
青江三奈牧伸二に耳打ち? 牧伸二がこちらに顔を向けると「どうも!」という感じで頭を下げてきた。
私もそれに釣られ頭を下げた。不覚にも愛想笑いを浮べてしまう。

「ママ、こちらのお客さんに生ビール追加してやってよ! あ、お兄さん、ここのオムレツ美味しいよ。ママ、例のオムレツもね」

「あ、いや、、、」

面倒くせぇ~! 牧伸二さんよ、馴れ馴れしいんだよ。

私は牧伸二の好意を断ろうとした。
すると、青江三奈は「あいよ!」なんて言いながら、牧伸二の伝票にチェックを入れ、厨房にオムレツの注文を通し生ビールを持ってきた。

迷惑なのに、迷惑なのに、、私はまたまた愛想笑いを浮べ「どうも、ご馳走になります...」と、内心を隠し牧伸二に向かって頭を下げた。
どこまでも人の好いおれ。

青江三奈に似たケバいママ。
牧伸二に似た、突っかけサンダルの馴れ馴れしいおやじ。

あんたら、おれの殻の中に無遠慮に踏み込むんじゃないよ。

面倒くせぇなぁ~~
早く帰りたいんですけど...。

f:id:okeraman:20211205010854p:plain



【星降る街角】


青江三奈牧伸二のバカっぱなしはまだまだ続いている。


ご馳走になったオムレツの味はまぁまぁだった。さっき食べたカニクリームコロッケも旨かったなァ...。
そんなことより、この居心地の悪さ。私は帰りたいのだが、オムレツ奢られちゃ、すぐ帰るわけにもいかない。

青江三奈は、そんな私の様子(表情)を窺うように、時折チラッチラッと、視線を向けてくる。私が楽しんでいるのか? 居心地が悪いのではないか?と、心配なのかもしれない。見た目はケバく派手なママだが好い人なのは間違いなさそうだ。

「お兄さん、このママ美人でしょ? 大宮の五月みどりだからね。」

「え? あはは!」

私は心の中で「うっ...」となった。
《違うだろ! 青江三奈でしょ? そして、あんたは牧伸二

牧伸二の冗談?に、あはは!と笑った私の反応を見て、青江三奈は安心したのか? とんでもないことを言い出す。

「カラオケでもしましょうか?!」

「あ、いいね、いいね♪」

おい おい おい!
カラオケ始まっちゃうのかよ?
勘弁しておくれよぉ~
おれは帰るんだもんね。絶対帰る!

面倒くさいことになったぞ、、と、困惑している私をよそに、牧伸二は喜々として歌詞本を捲っている。

時間を確認すると10時近くになっているようだ。


ちゃん ちゃちゃちゃ♪

聞き覚えのあるイントロが流れてきた。
厨房にいたおやじが、いつの間にか出てきて「ウォンチュー!」と、掛け声をかける。

( ワン ツー)
星の降る夜は あなたとふたりで
 踊ろうよ流れるボサノバ
   ふれあう指先ああ 恋の夜 ...♪

ん... ムード歌謡だな。
星降る街角?
敏いとうとハッピー & ブルーかよっ!
垢抜けねぇなぁ~ おい!
お願いですから勘弁しておくんなさい。自分はカニクリームコロッケに誘われただけなんです。

牧伸二の熱唱にリズムをとっている青江三奈と厨房おやじ。
茫然自失で心ここにあらず状態の私に視線を送ってくる青江三奈

もの凄い同調圧力

私は歌詞本を捲ったら負けだと強く思いながら、星降る街角のリズムに適当に合わせた。

何が悲しくて、見知らぬおやじの歌に合わせて、手拍子だの「ウォンチュー!」だのと掛け声かけなきゃならないのだ。 カッチョわりぃ~~
この牧伸二は突っかけサンダルなんだぞ。しかも、黒ジャージに首に手拭いだ。ここは狭いカウンターだけの店で無理ではあるが、ステップ踏みそうな勢い。恥ずかしいだろがっっ!

興に乗った牧伸二は、その後2~3曲歌うのだが、青江三奈は何を思ったか?奥の方から物騒なものを取り出してきた。

タンバリンにマラカス。。。

青江三奈はマラカスを私に渡すとニッコリ微笑んだ。

かっこ悪い...。
突っかけサンダルおやじの歌に合わせて、タンバリンとマラカスでリズムをとっている青江三奈と私。
こんな姿を家族友人知人に見られたら大変だ。恥ずかしくて、舌噛んで死ぬか、置き手紙を残して失踪するしか方法がないじゃないか(笑)。

ええい! もうどうにでもなれ!

不本意ながら、その後、私は青江三奈とデュエットで「男と女のラブゲーム」を歌う羽目になる。


そうこうして、時間は過ぎてゆく。

青江三奈牧伸二も、ちょっとありがた迷惑ではあるが、気の好い人達なのだろう。
恥ずかしい思いもしたが、ほっこりした気分にもなった。


背後のドア鐘がカランコロンと鳴った。2~3人連れのお客さんが入ってきたようだ。

時計は11時をとっくに過ぎている。
「それじゃあ、お勘定お願いします」
そのタイミングで、私はやっと帰ることが出来るのだった。



「今日はありがとうございます。これに懲りず、また、来て下さいね」

青江三奈は情が深い人なのかもしれない。かなり、私に気遣っていたことは分かっていた。

「いいえ! 楽しかったです。御馳走さまでした」

奥の方から、牧伸二が「お兄さん、またね!」と、声をかけてくれた。

青江三奈は戸の外まで見送ってくれる。「じゃあ!」と言って、私は参道を大宮駅の方に向かって、てくてくてくてくと歩いていった。
しばらくして振り返ると、青江三奈はまだこちらを見送っていた。そして、手を振ってくれた。
少々照れくさくもあるが、その心遣いが嬉しくもあった。

ケバい女の人は情が深いのだ。

ありがとう、青江三奈
そして、突っかけサンダルの牧伸二さんも。


夜空には星が。
“ 星降る街角か?” と、私は呟いた。
今日は良い日だったな...。

大宮の夜は更ける。

球星伝 「フェンスの向こうの伝説」

field of dreams(中)大谷翔平ウルトラマン
https://okeraman.hatenablog.com/entry/2021/10/23/154723
よりの続き。


沢村栄治なかりせば、私もいない』
野村克也氏の言葉である。

この言葉の意味はお分かり頂けると思う。先だって、メジャーMVPを受賞した大谷翔平にしても、少年時代に憧れた存在は松井秀喜だった。
タラレバになるけども、そんな憧れの存在なくして現在の彼があるのだろうか? 野球選手を目指していない可能性すらある。

そんな松井にしても、イチローにしても、メジャーであれだけ活躍出来たのは、野茂英雄という先駆者がMLBへの道を切り拓いたからかもしれない。
野茂英雄も少年時代に憧れたのは江川卓だったという。

そうやって、連綿と続いてきた。


テレビで張本勲氏が暴言?を吐いて多数の批判が寄せられた。それは当然であると思う。しかし、そんな批判の中で不快感を覚えたものがある。

「張本のいた時代なんてNPB発展途上でレベルが低かった...」

なんて言う人が結構いたこと。
当時よりNPBのレベルが格段に進歩したことは否定しません。
昔よりレベルが落ちていれば、そのスポーツは滅びてしまっている。


あの、伝説の長距離ランナー。
「人間機関車」エミール・ザトペックのマラソン記録は、現代でいえば日本女子マラソンの記録にも遠く及ばない。ベスト10にも入らないだろう?


それを発展途上だのレベルが低いだの、、張本と同時代に活躍していたONをはじめ、多くの名選手に対する侮辱であり、それに憧れて野球選手になったもの、ファンも大勢いるのだ。

日本の野球ファンはまだまだ未成熟だと感じる。
アメリカのMLBファンとの気質の差? もっと根本的な野球文化とベースボール文化の違いを感じます。

MLBファンは過去の名選手に対する敬意は深い。


イチローMLBで記録を作った時。
こんないい話があった。

新人最多安打(233)更新
前記録保持者のジョー・ジャクソン

年間連続200安打(9年)更新
ウィリー・キーラー

シーズン最多安打(258)更新
ジョージ・シスラー

そのたびに過去の大記録が再びスポットライトを浴び、忘れ去られていた伝説の打者を次々に現代に甦らせたのです。メジャーファンは、そんな19世紀末~20世紀初の名選手に思いを馳せ、熱く語ったそうなのだ。
遺族はそんな祖父?の記録が抜かれて悔しがるどころか、再びその名前が世に出て、多くのファンがそのキャリアについて熱く語ってくれことが嬉しかったそうです。当然ですよね。

f:id:okeraman:20211127013347j:plain

これこそ、ベースボール文化。
 否、スポーツ文化だと思います。

なぜ、日本の野球マスコミは、今シーズン、史上最年少で通算100号本塁打をヤクルト村上崇高が達成した時に、前記録保持者である中西太のことを取り上げないのか?バカじゃないかと思う。


アメリカはその町の数だけ、野球にまつわる伝説のある国。
現実に眼前で繰り広げられるプレーヤーだけでなく、フェンスの向こうの伝説。神話の種が蒔かれている。

かつて、アメリカではカーニバル野球というものがあったらしい。
各町のカーニバルにプロ野球チームを招き(マイナーリーグだと思う)、地元の野球腕自慢が挑戦する。
そこで活躍すると、プロからスカウトされるものも少なくはなかった。
そして、メジャーリーガーになるものも稀にいたらしい。


こんな話がある。

「奴は運がなかったのさ。知ってるかい。本当はあいつが上に行くはずだったのに、肝心な時になって歯が痛み出してさ。他の男にチャンスをくれることになった。代わりにメジャーリーグに上がって行った男? スタン・ミュージアルって奴よ」 吉目木晴彦「魔球の伝説」引用。

かくも素晴らしきベースボール文化。

 ・・・・・・・・・・・・・・・

前回の field of dreams というタイトルから「球星伝」に変えました。

今後の野球ネタは「球星伝」に統一します。競馬ネタは「幻馬伝」にするかな。

寅さんに会った夜。

上野公園内をぶらぶら歩いていると、人だかりが出来ていた。


「四谷、赤坂、麹町、チャラチャラ流れる御茶ノ水、粋な姐ちゃん立ちションベン。白く咲いたが百合の花、四角四面は豆腐屋の娘、色は白いが水くさい...」

独特の流れるような口上に艶のある声、歯切れの良い台詞回し。

ドキッとする。もしや!?

私は人混みの後ろから中を覗いてみた。フーテンの寅こと、車寅次郎の啖呵売。憧れの寅さんがそこにいる。
その美しくも鋭い滑舌を、私は後ろの方から、うっとりしながら最後まで眺め聞いていた。
夢にまで見た寅さんである。

一日の商売を終え、店仕舞する寅さんの背中に、私はドキドキしながら思い切って声をかけてみた。

「あの... 柴又の寅さんですよね?」

「・・・」

あの細く鋭い目を、訝しげに向けてきた。明らかに警戒している。

「あ、、すいません。私はアナタのファンなので、迷惑とも思いましたが、声を掛けさせてもらいました」

「どこのどなたさんか存じませんが、ワタクシみたいな男のファンだなんて、アンタもおかしな男だねぇ...」

寅さんはそう言うと、あとは興味なさそうにスタスタと歩き始めた。
私はそんな寅さんの後を追いかけながら、何か話すきっかけを窺う。
寅さんは、煩そうに振り返る。

「 で、オレのファンだって云う、何処の馬の骨さんが何の用だい?」

「あ、あの、、もしよろしければ、その辺で一杯やれないかな?と...」

寅さんは胡散臭そうに目を私に向けてきた。

「でもよ、懐具合がよ・・・」


 ・・・・・・・・・・


上野~御徒町間の、ガード下で寅さんと一杯やっている。
昭和の名残ある一杯呑み屋。
最初は何処の馬の骨とも知れぬ私を不審がっていた寅さんも、話しているうちに打ち解けてきたようだ。

瓶ビールでお互いにお酌乾杯をし、肴は焼き鳥、肉豆腐、香の物 等々。
そして、寅さんと飲むなら絶対に日本酒なのだ。熱燗を注文する。
今夜はかなり酔っ払いそうだ。二日酔いになるのも覚悟で、徹底的に寅さんに付き合おうと決めている。

「この辺りではよ、日本画の青函先生や、亜米利加人のマイケルと飲んだことがあってな。懐かしいな...」

寅さんの口から、青函先生(宇野重吉)やマイケル(ハーブ・エデルマン)の名前が出てきたことが、私は無性に嬉しくなった。証券マンの富永(米倉斉加年)と出会ったのも、この辺りだと記憶する。

酔うほどに話は盛り上がる。
寅さんの話は実に面白く飽きない。これが有名な “寅のアリア” なのだろう。まるで情景が浮かび上がるようで、真打ちの噺家のようだ。
自分では「学がねえからよ...」と言うものの、本当は頭の良い人なのだろう。


f:id:okeraman:20211119144651j:plain


話は「とらや」の面々に及ぶ。
おいちゃん、おばちゃんのエピソードがたまらなく可笑しく、日頃は冷めた性格で、めったに声を上げて笑うことのない私も、それこそ大爆笑。
こうして、寅さんと話していることが夢のようで、楽しく愉快で、こんなに笑ったのは子供のとき以来だろう。

でも、心の何処かで緊張しているのを自覚する。

その緊張感は、憧れの人を目の前にしているところから来るのか?
それとも、本当は鋭い感性の持ち主である寅さんに対する恐れなのか?


とらやの面々、歴代のマドンナについて、寅さんは多くを語ってくれた。
そんな中、妹のさくらと、恋人?リリーを語る時の表情は遠くを見つめるような目で、特別の思いがあるのだろう。

私は酔の勢いもあり、迷いながらも思い切って聞いてみた。

「寅さんはリリーさんと一緒になって、団子屋さんを継いで、柴又で静かに暮らせなかったんですかね?」

寅さんは一瞬考えたようだが...。

「言ってみりゃ、あいつ(リリー)も俺と同じ渡り鳥よ。腹減らしてさ、羽根を怪我してさ、しばらくこの家で休んでいただけよ。いつかはパッと羽ばたいてあの青い空へ…」

何処で聞いたセリフだな。
私は苦笑いを浮かべる。

寅さんは続けてこうも言った。

「オレやリリーのような風来坊が、団子屋なんてやっていけると思うかい? 第一、オレみたいなヤクザな兄貴が近くにいたんじゃ、さくらや博に迷惑かけちまうもんな」

寅さんはそう言うと黙ってしまった。
きっと、他人には窺い知れない、定住できない者の哀しみがあるのだろう。

しんみりしてしまったようで、私は話題を変えてみた。

「寅さんと、朝日印刷の社長さんは、いつも大喧嘩してるようで、お互いに遠慮なしで仲がいいんですね?」

「なに! 裏のタコのことか? 冗談じゃねえやい。あのタコはいつも辛気臭い顔しやがって、ツラを見てるとこっちまで鬱々してくらァ」

もう少し、優しい言葉を期待したが、照れの裏返しなのだろうか? 寅さんとタコ社長の関係を疑ってしまう。


私には、どうしても寅さんに聞きたいことがあった。

「弟分の源ちゃんとの出会いって? どんな経緯で、源ちゃんは柴又にやってきたんですかね? ファンとして、源ちゃんの過去が最大の謎なんですよ...」

「・・・」

寅さんは、眉間に皺を寄せて、ジィーっと私を睨む。

「アンタも野暮なこと聞くねぇ...。誰もが他人には触れてほしくないってもんがあるんだよ。過去がどうあれ、源ちゃんは源ちゃんよ」

これが寅さんなのだ。

一見、粗野で自分勝手、やりたい放題の印象を受ける寅さんだが、実は人の痛みを知り、決してそこには踏み込んで来ない。一線を超えることはない。
車寅次郎なりの流儀なのかもしれない。

寅さんの言葉に自分を恥じ、私は黙るしかなかった。

「でもよ、、偉いのは題経寺の御前様だな。オレや源のようなバカが、どんなヘマをしようと決して見捨てることはしないもんな、、。小言はうるさいけどよ、御前様は、人を生まれや育ちで見ないし、差別しないからよ...」

f:id:okeraman:20211120130706j:plain


夜は更けてきた。

「じゃあ、明日も早いからよ。そろそろお開きにしようか? 今日はゴチになってありがとな。今度、お礼するからよ、連絡先教えてくんな。」

「いえいえ、お礼なんて、、今日は色々話を聞かせてもらって、ありがとうございます。楽しかったです。」

私はそう答えると、懐からスマホを取り出し、連絡先をメモして寅さんに渡す。
そのスマホを寅さんは寂しげな目でジッと見ている。
私は慌ててスマホを懐に戻した。

これは、寅さんに見せてはならない。


店を出た寅さんと私は、上野駅に向かってテクテク歩いている。

「あんたも真面目だねぇ、、もっと肩の力抜いて生きた方がいいよ」

「はい! そうします」



私は気付いていた。
 
 今、一緒に歩いているのは?

寅さんの幻であるということを。

 寅さんのゴーストと飲んでいた。



そんなゴーストの寅さんに、最後にどうしても聞きたいことがあった。


「寅さん!」

「ん。なんだい?」


「寅さんは今(令和3年)の日本をどう思いますか?」


寅さんは立ち止まると星空を見上げ
考え込んだあとに言った。


「オレには難しいことは分かんねえけどよ。う~ん、、そうだな、例えば裏のタコよ! ああいう貧しい中でも必死に頑張っているやつ。ああいうやつが報われねえ世の中はまずいんじゃねえかい? 天高く上がってほしいよねぇ。オレはそう思うよ。」


それだけで、もう充分だった。
益々、私は寅さんが好きになる。


・・・・・・・・・・・


上野駅に着くと「じゃあな!」と言い残し、寅さんは人混みの中消えた。

ゴーストの寅さんは、風の吹くまま気の向くまま、今でも全国を旅しているのだろう。


  寅さんに献杯

呑みレポ「仏像大暴れ!」

f:id:okeraman:20211118173333j:plain


先週の土曜日。

日暮れ時の雑踏を歩いていた。
赤提灯から、焼き鳥を焼く扇情的な匂いが鼻孔をかすめる。
それに誘われるまま、私は暖簾を潜った。この店も久しぶりだ...。

「どうも!」

「久しぶりですね!」

コワモテのマスターが黙々と仕事をしている。女将さんが愛想笑いを向ける。

「瓶ビール下さい。それからモツの煮込みね」

f:id:okeraman:20211115142135j:plain


この店のことは、このブログでも何度か書いているが、煮込みが実にうまい。

私は血糖値が高い。
麦酒や和酒は極力避けているのだが、たまの外飲みだ、今日ぐらいはいいだろう。明日からまた節制すればいいからだ。

「健康を祈って乾杯し、健康を損ねる」

そんな、誰かの名言があったな?

麦酒が胃を刺激する。
《 腹が減った...》

「すいませーん! レバーと、、それからボンジリを2本ずつ。塩でね」

f:id:okeraman:20211115151654j:plain


どーすんだよ! これ。

煮込みに焼き鳥4本を麦酒で流し込む愚かなる飲み助。
健康体ならば、このぐらいは微々たるもんで、序の口であるのだが、私は糖尿病なのだ。また血糖値が上がりまずいことになるぞ。 まぁ、今日はいいか...

でもなぁ、、、

池袋文芸座で『聖なる酔っぱらいの伝説』という映画を観たことがある。どういう話だったのか? 内容は覚えていない。

聖なる酔っ払い?

違うな、私は絶対に莫迦なのだろう。



あとから入ってきた、肥満気味で仏像に似たオヤジが、生ビールと煮込みを注文している。この店の売りはモツ煮込みなのだ。

仏像は生ビールをグビグビ呷る。


本来、麦酒なんて、ああやってゴクゴク喉を鳴らして飲むものなのだ。
そんな仏像の飲みっぷりを横目に感心している私は、麦酒をちびちびと愛おしげに飲んでいる。
そろそろ、麦酒がなくなりそうだ。
麦酒と和酒は糖尿にはよくないそうだ。これでやめようか、それとも焼酎は良い?らしいので、烏龍割かお湯割りにしようか考える。

その時、横の仏像が動いた。

「え~~と、ネギマ、レバー、ツクネをタレで2本ずつ。それから、タン、ハツ、砂肝を塩で2本ずつ。あ、生ビールもおかわりね。」

一人で12本かい!?
そんなんだから肥えるんだぞ。
食いすぎだろがっっ!
糖尿病になっても知らねーぞ。

私はネギ焼きか椎茸焼きを追加しようかどうか考えているのに、この仏像ときたら、無遠慮に肉を食いまくっている。

お! また喉鳴らして飲んでやがる。


私のビール瓶の中が空になったようだ。
お湯割りでも頼むか...。


「すいませーん! 八海山下さい」


f:id:okeraman:20211116145603j:plain


ビューティフル!
見事な表面張力である。

やっちゃったよ... 禁断の和酒。



「お前はなぜそんなに酒を飲むのだ?」

「忘れるためさ」

「何を忘れたいのだ?」

「忘れたよ そんなことは」

そんな酒に関するジョークが頭を過る。


自分の健康状態や懐具合が気になるのは、最初の一杯だけなのだ。
 
  私は莫迦なのだと確信する。


美味しい
 美味しい
  美味しい。

私はこの八海山が大好きなのだ。
この店に来ると、必ず頼むのがこの酒とモツ煮込み。
この店との付き合いは長く、20年近くなるんじゃないかな? 最初は今は無きレバ刺しが目的で通っていた。ここのレバ刺し旨かったなぁ~ もう一度食べたい。

シミジミと独飲しながら、私はスマホで明日のエリザベス女王杯の情報を眺めている。レイパパレという馬の母系にロマンを感じ、この馬を固定にして、馬単を数点流してみようかと考えている。
(結果はアカイイトの優勝でした)



再び横の仏像が地響きを立てた。

「あ、マスター、ビールおかわり。カキフライももらおうかな、タルタルソース付きで。肉豆腐も下さい」


自分がまだ身体のことなんて気にせず、自由に飲み食いしていたころは、この仏像と同じだったのだろうな?
下手すると、帰りにラーメンを食べて、更にコンビニに寄りアイスクリームを買って自宅で食べた。

この仏像は私と同年代かやや下かな?
きっと、そのうち病気になるぞ...。

そんなことを考えながら、八海山が美味しくて、おかわりしたくなる。
目の前の焼き鳥は食べ尽くし、煮込みの豆腐が僅かに残っているだけ。

「あの... シロをタレで2本下さい」

f:id:okeraman:20211118145826j:plain



どんなもんだい!
アルコールが少し入ったので気が大きくなっちゃったもんね。

焼き鳥のタレは糖分が多く厳禁なんだぜ。私は莫迦なのだ。

リンカーンの言葉にあったね?
「酒の害は酒が毒だからでなく、すばらしいが故につい飲み過ぎるからだ」

まだ全然飲み過ぎてはいない。
店も混んで来たので、八海山のおかわりは控えて帰ろう。

横にちらっと目を向けると、仏像が大暴れしている。
ジョッキのビールを呷り、タルタルソースの付いたカキフライをパクパク喰らい、尚もビールをおかわりしそうだ。

健康って素晴らしい。そして、一生懸命に生きているんだろうな。
私はそんな仏像さんに好感を持った。同時に滑稽で哀しくもある。

私は席を立った。

「おあいそ、お願いしまーす!」

これ以上、飲みすぎてはまずい。

さて、部屋に戻って飲もう。

 ・・・・・・・・・・・・

ん! まだ飲むのかって.?

だって。

ビンビール一本
八海山一杯
モツ煮込み
レバー、ボンジリ 塩各,2本
シロ タレ 2本

これだけだからね。

まるで、パリ・コレクションのモデル並みの極少飲酒。

そんな私より、あの、大暴れしていた仏像さんが正常なのです。

では。