オケラ街道の奇人

令和という斜面に踏み止まって生きる奇人。自称抒情派馬券師、オケラ街道に潜む。

幻馬伝「走る抒情詩ブエナビスタ」

「絶景かな~! 絶景かな~!」

天下御免の大泥棒!
義賊・石川五右衛門は、満開に咲き誇る桜を前に、そう見栄を切った。

絶景...。
ブエナビスタのことだな。

あれから10年以上も経つのか?
2011有馬記念
彼女の引退レースとなったが、新たなヒーロー、オルフェーヴルの快走とは対象的に、思うような走りができなかった。いつものキレがない。

レース前の集会所でのことだ。
他の馬は輪乗りをしているのに、彼女は一頭だけ立ち止まり遠くをジッと眺めていたという。

ブエナビスタは、今日がラストランになることを知っていたのだろうか?

レース後、彼女は悔し涙を流したという噂が、まことしやかに流れた。

引退式。

その記念撮影で、彼女はずっと静かにスタンドのファンを見ていたという。
何を思って眺めていたのだろうか?

「絶景かなぁ~! 絶景かなぁ~!」

桜を前に見栄を切った、石川五右衛門に通じるものを感じるのです。
ブエナビスタにとっては、ファンの姿こそ絶景なのだろう。
まぁ実際、馬はそんなこと考えないだろうが、そう思うようにしています。

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ブエナビスタには不運の影がつきまとう。

2010年ジャパンCで、スミヨン騎手を背に一着入線。完勝のように見えた。
しかし、長い審議の末、二着降着
進路妨害?とのことだ。
前年の秋華賞に続き、G1レース二度の降着は前例がない。
この時、ブエナビスタはレース終了後も、しばらく引き運動をしていたが、時折立ち止まり周囲を眺めていた。
「勝ったのが分かってたんや...」
と、松田博資調教師が言った。

ブエナビスタが「走る抒情詩」たる所以は、時折立ち止まり周囲を見まわす立ち姿にある。あれは美しい。

ブエナビスタの不運はそれだけではない。
引退して母となり、キングカメハメハとの間に受胎した初子を流産。
G1阪神ジュベナイルフィリーズを制し、ブエナの後継馬たる、妹ジョワドヴィーヴルが、調教中の事故がもとで予後不良となる。

そう言えば、ブエナビスタジョワドヴィーヴルの母であるビワハイジが、先日29才の老衰?大往生を遂げましたね。偉大なる母でした。
私はこのことが頭にあったので、今回のブログ更新はブエナビスタについて書こうと思ったのです。
謂わばビワハイジへの追悼ですね。
母となったブエナビスタ、今のところ目立った産駒は出していませんが、ビワハイジのように大物をいつか...。


「歴代で一番好きだった牝馬は?」

そう問われれば、私は躊躇なくブエナビスタ!と、即答するでしょうね。

ブエナビスタは小柄で、ウオッカのように見栄えのする馬ではなかったけど、なぜか心に残る。
それは、彼女の気性が素直で常に全力で走っていることに起因する。
その点では、同じく私が大好きだったゴールドシップとは対照的(笑)。

彼女の走りには「競争馬は何のために走るのか?」という、競馬ファン永遠のテーマを考えさせる何かがある。

伝説の新馬戦
2010年天皇賞
2011ジャパンC
(前年降着の雪辱を果たす)

あの疾風のような末脚は、驚くほどカッコ良かった。
私の中では、ウオッカダイワスカーレットジェンティルドンナ、アーモンドアイ等を抑えて、史上最強牝馬とは言わないが、史上最高牝馬と決めつけています。

ミス・ファンタスティックホース。

走る抒情詩ブエナビスタ

彼女の走りは絶景なのです。