ツン !
ツンツン...
ビクッとした。
ん? 今は授業中だぞ...
そっと背後を振り返ると、そこにいるのはR子である。
R子は何事もないようにジッと下を俯いていた。
お、おれの背中を軽く突いただろ?
戸惑った。
日頃の彼女は殆ど喋らない、かなり内向的な性格の女子である。
私は彼女と言葉を交わしたことはなく、彼女が自分から人に話し掛けるところを見た記憶もない。
何か間違って...
私の背中に触れてしまっただけ?
否、違うよな。
もしそうならば、私が振り返った際に「ゴメン!」とか反応があるはずだ。いくら大人しい性格であってもだ。
なのに目も合わさず俯いているだけ。
明らかに、あの突き方は、、、
何かしら、意思がこもっていた。
ツンツン...
これは小学校4~5年生頃の記憶。
私はやんちゃな騒ぐ少年ではなかったので、休み時間になっても「おい、さっきのは何だよ!?」と、騒ぎ立てることもなく、R子の方からも何も言ってくることなく謎のままだった。
普段全然喋らないR子が、背中を突いてきたことが意外で、その後も忘れられないでいた。
何か言いたかったのだろうか?
あれは何だったのだろうか?
50年以上も経っているのだから、考えすぎて時間と共に思い出は変化するのかもしれない。
後付けの記憶? 記憶は嘘をつくとも言われるが、なぜ、あんな取るに足らない一片のエピソードが、いつまでも心に残っているのだろうか?
“ うしろの正面だぁ~れ? ”
キューポラのある町奇譚?
今風で云えば、都市伝説というのかな?
『川口には流れ者が多い。
人さらいが出る。
子供の手を引いて荒川の土手を歩いている。』
彼女はその後消えた。
正確に云えば、クラスメートに何も告げず転校したのです。
先生は「家庭の事情」というだけで、あまりそのことには触れたがらないように感じた。
夜逃げ?
昭和40年代。
そんな、突然消える児童は珍しくなかった。
無責任な噂もありましたね。
そんなこともあり、私は背中ツンツン事件を思い出すと、それと昭和の闇を連想して怖いのだ。