オケラ街道の奇人

令和という斜面に踏み止まって生きる奇人。自称抒情派馬券師、オケラ街道に潜む。

深夜、雪女に逃げられた。

 

私は雪女を見たことがあります。

今は付き合いのない、昔、勤めていた会社の同僚ふたりとフライデーナイトということもありお酒飲み大会。

雪がチラホラ舞っていた。

仕事を終え、7時頃かな?店に入る頃は既に積もり始めていたか否かは記憶にない。普通、こんな雪の日は真っ直ぐ帰るだろう? 電車が止まったらどーすんだよ!と、今のおれなら思う。

まだ30代前半の頃? 若かった。

雪見酒しようぜ!」

「店の中じゃ雪見酒にならないよ」

「こんな日は熱燗だよな!」

そんな会話があったかどうかは定かでない。とにかく、何かと理由をつけてお酒を飲みたい三人組なのだ。

モツの煮込みとかおでんとか、そんな体が温まるものを頼んだのかな?
それより、アツアツの熱燗が五臓六腑に染みる。気がつけば徳利が10本以上転がってたんじゃないかな?
(実際はマナー上から片付けるので倒し徳利はしていません)

飲み助トリオのだらしない飲み方。
終電近くまでダラダラ飲みました。

酔っ払いましたよ。

店を出ると結構積もってましたよ。
でも、熱燗で身体はポカポカ。

電車でそれぞれ別れ、一人になった瞬間、酔っ払いのおれは変な人と化す。
(他人と一緒の時は酔っ払っていても冷静な男を装う)

駅を降りた。

 

家まで歩いて12~3分? この雪、積雪じゃ倍の時間がかかるかもしれない。
駅前道路を抜けると国道に出た。
少し歩くだけで黒革ビジネスシューズの中はぐちゃぐちゃだ。靴下もびちゃびちゃだ。それでもおれは酔っ払っている。独り酔っ払い状態のおれは無敵なのである。靴が濡れようとスーツがびしょ濡れになろうと、そんなことは知ったこっちゃない。

ファンタスティック!

目を仰ぐと街灯に照らされる雪が神秘的で幻想的でビューティフル。

時折、チェーンを装着した車がカラカラカラと通り過ぎる。

こんな夜中(深夜零時頃?)に、雪の積もった国道沿いを歩いているバカはいない。おれだけだ。
そんな中を歩くたびザクッと雪の中に靴ごと足を潜らし踏み歩く。

愉快だった! おれはハイ状態。

こんな雪の舞う銀世界にひとり。

傘を振り回し鼻歌を歌いながらおれは雪の中をバカ騒ぎしながら歩く。

Singing In The Rain I'm singing in the rain Just singing in the rain ♫

この歌は名画『雨に唄えば』で、雨の中をジーン・ケリーが発狂する場面。

https://youtu.be/edvN1DfRTZI

おれもジーン・ケリーになったつもりで雪の中理性を失い傘を振り回す。

Singing In The snow singing in the snow Just singing in the snow♫
(rain → snow の替え歌)

その時でした。

前方(20~30m?)に白いものがある。

雪の舞う中、白いものが “ある” というより “いる” のだ。
目を凝らしてよく見ると、真っ白なコート? 肩まで伸びている黒髪。
それが、ぼんやり立っているのだ。

 

こ、これはひとだ! 女だ...。

み、見られたな。
ジーンケリーになった、さっきまでのおれの狂態を見たな?
恥ずかしいじゃないか。

でも、こんな深夜の雪の中、、この女はなぜ国道をひとりで歩いているのだろうか? おれはちょっと怖くなった。

これは幻妖ではないのか?

雪が降っていなければ、おれはきっと口裂け女だと思い走って逃げる。
でも、こんな雪深い中では身動きが出来ない。逃げられない。

こいつは雪女なのだ。。。

そうでなかったら、こんな降雪の深夜に女がひとり歩いている説明がつかない。白いコートに長い黒髪。
雪女のお雪そのものではないか?

酔が覚めた気分だった。
おれはこの雪女に呪い殺されてしまうのだろうか?
雪女の吐息を浴び凍え死んでしまう。

酔っ払っているおれの妄想は現実離れしており、かなり幼稚なのだ。

サクッサクッっと、突っ立っていた雪女がこちらに歩んできた。
おれもビクビクしながら前に進む。
ふたりの距離は縮んできた。前にいる雪女はかなり若くそれに美しい?
踵の高いブーツを履いているのか?おれより明らかに背が高い。

おれの視線と雪女の視線が交錯した。

ゾッとするほど美しい。

美は過ぎると恐怖にもなるのだ。

おれと目が合った雪女の動きが不自然に激しくなった。雪の中をズボズボと恐い顔で早歩きになったのだ。

ひぃ~~! 襲われる。

おれはおっかながり屋なのだ。

おれを襲ってくるのか?と思われた雪女は、目を合わせようとせず必死に前に進んで行き交った。

助かった...。

振り返ると雪女はかなり前に進んでおり、まるでおれから逃げるかのようだった。逃げたのはどっちだ?

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昨日は少し雪が降りましたね。

そこからこのことを思い出しました。この体験談?は結構他人に話していますし、SNS等で書いたことがあるかも
しれません。作り話でなく実話。
でも、30年も昔で酔っ払ってもいたので雪女を過剰に美しく妄想してみました。多少の脚色もあります。

なんていうことはない。
雪女はおれを怪しい男? 痴漢か何かと勘違いして死にもの狂いで逃げただけなのかもしれませんね。